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エッセイ リアリティバランス

リアリティバランス

 どこにでもいるような人の、どこにでもあるような日常生活。特別なハプニングもなければ、何かの記念日でもない。昨日とほとんど変わることのない今日一日の出来事。はたして、主人公が口にする朝食とはいったい何か!
 小説の宣伝文句としては最悪である。
 おそらく朝食は、パンかごはんだと思われるが、それを知ったからといって、読者が大満足するということはないだろう。それ以前に、こんな小説を好んで読もうとする読者はそうはいないはず。
 読者が小説に求めているもの。それは、非日常の世界に他ならない。現実とは異なる世界に一時身を置き、ハラハラするような出来事、胸を熱くするような出来事を、物語の登場人物たちとともに擬似体験していく。そこに読書というものの喜びがあるのだ。
 とはいえ、あまりに現実離れしすぎている小説にも問題はある。いくら読み進んでみても、なかなか物語の世界に入りこめない。なかなか登場人物に感情移入できない。そういった感想を抱く作品も少なくはない。その大きな要因の一つが、“嘘っぽさ”である。
 フィクションである以上、嘘であることに違いはないのだが、小説に求められているのは、嘘は嘘でも、リアリティを感じさせる嘘のこと。言い替えれば、許容できる嘘のことである。
 もちろん、嘘の許容量というものは、読者によってまちまちだろう。しかもそれは、小説のジャンルによっても違ってくる。
 動物や植物、乗り物や建物などが、人間の言葉をしゃべったとしても、それが童話の中であれば、さほど違和感はない。
 もしもそれが童話ではなく、シリアスな物語、たとえば、戦争の悲惨さをテーマにしたような作品だったとしたらどうだろう。
 本当は攻撃なんてしたくなかったんだ、という戦車の嘆き。
 ようやく出番らしいや、という核シェルターのはしゃぎ声。
 味はまあまあってとこかな、という死体に群がるハエの呟き。
 これはもう、完全に許容量を超えてしまっているはずだ。
 同様に、魔法の力を借りていいのは、ファンタジー小説の主人公であって、ミステリー小説の主人公ではない。推理に行きづまったシャーロック・ホームズが、最後の手段とばかりに、魔法の力で事件を解決しようとしても、それはたぶんワトソン君に止められるはずだ。
 リアリティを求める傾向は、時代が進むに連れ、ますます高まって来ているのではないだろうか。
 たとえば、数十年前の大ベストセラー作家、江戸川乱歩の作品を改めて読んでみると、あまりに現実離れしすぎていて、怖いはずの場面で、ついつい笑ってしまうということも多々ある。
 現実社会で交わされる会話と、小説の中の会話文とでは、大きな違いがある。単純に言ってしまえば、きちんとしているかしていないかの違いだ。
 話の方向はあちらこちらへ飛び、語順は乱れ、口はうまく回らず、言い間違いが多い。それが現実での会話である。
 しかし、これを小説の中で再現しようとすると、それはもう、とんでもなくわかりづらく、とんでもなく長い作品になってしまう。
 このあたりについては、そこまでのリアルさは必要なしという、書き手と読み手との間で、暗黙の了解みたいなものがあるのだろう。
 殺人を犯す動機としては、あまりにも現実離れしすぎている。読者から、そんな評価を受けるミステリー小説がある。人を殺すには、もっと明確な理由があるはずだ。ということなのだろう。
 しかし、なぜそんな理由で? と首を傾げたくなるような殺人事件は、現実社会でも決して珍しいことではない。
 このことを考えると、ミステリー小説に重要なのは、現実性ではなく、人間の言動というものに、いかにして明確な理由づけをするか、ということなのかもしれない。
 物語の中で、偶然の出来事が多い作品は、作家のご都合主義、といった評価をよく受けやすい。高校生を主人公にした物語の場合、今の高校生はこんなしゃべり方はしない。そんな感想をよく耳にする。医者を主人公にした作品を、医療関係者が読めば、そんな医者がいるわけない、といったような意見が多いはずだ。もしも宇宙人がSF小説を読んだとしたら、あまりにも現実と異なる内容に、ため息を連発するかもしれない。
 リアリティというエッセンスを、いったいどの程度フィクションに振りかければいいのか。現実的すぎても駄目。現実離れしすぎていても駄目。これは本当に難問だ。
 さて、私の『雨と虹の日々』、もしも猫が読んだとしたら、いったいどう思うのだろう。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

私も、いきなり異世界に行ってしまうようなファンタジーは、気持ちがついていかなくて、なかなか読めないです。
きっと慣れだと思うのですが。
いや、このファンタジーを楽しむぞ、という気合が足りないのかも^^;

でも、たった一つ、ハイファンタジーなのに、グイグイ惹きつけられた小説があります。
小野不由美の「十二国記」。
一体何が違うのだろう・・・と、考えると、やはり文章力、描写力の素晴らしさですね。
読者に苦労して付いてきてもらうのではなく、招き入れてくれる力がすごい。

でも、あの作者はたぐいまれな方で、やはり基本、私も現実味を帯びた物語が好きです。
でも、朝ごはんの中身とかを延々と語られると、閉じてしまうかも(笑)
現実の中のわずかな非現実。そんな物語が好きです。
レイン、なんの抵抗もなく、すんなり入って来てくれましたよ。
ファンタジーだという感覚も、あまりなかったです。
きっとそれも片瀬さんの、世界観を作る力なんだろうなと思います。


Re: No title

limeさん、コメントありがとうございます。

> 私も、いきなり異世界に行ってしまうようなファンタジーは、気持ちがついていかなくて、なかなか読めないです。
> きっと慣れだと思うのですが。

それから、年齢の影響も大きいと思います。
どんなに現実離れした設定の話でも、子供の頃は、それほど違和感もなく受け入れていたはずなんですよね。
歳を取るにつれ、許容できる幅は狭くなるということなんでしょう。
それとは逆に、物語を深く読み解くことができる、というのが大人の文学の楽しみ方。
うーん。大人と子供、どちらが得なんだろう。

> 小野不由美の「十二国記」。

まだ、読んだことのない作家さんでしたけど、ちょっと興味出てきました。
確か、ホラー小説を多く書いている人ですよね。
そういえば、ラジオドラマでやっていた『残穢』は聞いたことありました。
limeさんって、怖い話、苦手じゃなかったでしたっけ?

> レイン、なんの抵抗もなく、すんなり入って来てくれましたよ。
> ファンタジーだという感覚も、あまりなかったです。
> きっとそれも片瀬さんの、世界観を作る力なんだろうなと思います。

ありがとうございます。そういってもらえると、私もレインも救われます。

お久しぶりです~♪

ご訪問並びにご感想ありがとうございました♪
お返事が遅れてしまったことを本当に深くお詫び申し上げます!!

リアリティですか。
なかなかサジ加減が難しいですよね、ほんとに。
そして、みことさん作品を本物の猫が読んだら…というの、いや、割と「良い線いってるじゃね~か」とにやりとするかも知れませんぜ、先生。
猫って…いえ、犬やライオンやペンギンもらしいですが、動物って実はものすごぉく感情豊か、感性が鋭くて、人間をバカにしたり、或いは人間の心ない一言に傷ついたりもしているらしいですから。(動物と話せるというハイジさんの言葉ですが「志村動物園」の)

朱鷺は割と他人さまの作品に関して(プロ作家さんに対してですが)はリアリティは厳しく求めます。なんというか、魔法を使うとか偶然が起こるとかってのとは別に、感情の動きに関してですかね。
は? と眉根にシワを寄せた瞬間、読む気を失くします。えええっ? は良いんですが、はぁ? という不快さは無理ですね。(何を言ってるやら…(--;)
収め難い違和感を抱くに至る作品はその場で「さよなら」です。最後まで読みません。
それが、ウェブ作家さんのものであれば、(ものすごい不愉快にならない限りは)最後まで目を通す可能性は高いですが、そして、もしかして感想を残すこともありますが。
何しろ、その辺はお互い様(^^;

感情を細かく描写する必要はないですが、その抱いた筈の感情に寄る次の行動に納得出来ないものは読んでいて不快です。
特に、そう! 殺人の動機なんかは、納得し得るものが必要です。
なんで、そんなことで? というのはその種類に寄るかな。現代の、むしゃくしゃしたから、とか、誰でも良いからコロしてみたかった、というのは、むしろ朱鷺は分かります。そういう壊れかけた子たちの心がなんとなく分かるから。
そうじゃなくて、もっと人間的なドラマになったとき、アンバランスなことを仕出かして欲しくないですね~。

と、他人に対する要求ばかり高い勝手な生き物でございました(^^;

Re: お久しぶりです~♪

朱鷺さん、コメントありがとうございます。

> そして、みことさん作品を本物の猫が読んだら…というの、いや、割と「良い線いってるじゃね~か」とにやりとするかも知れませんぜ、先生。
> 猫って…いえ、犬やライオンやペンギンもらしいですが、動物って実はものすごぉく感情豊か、感性が鋭くて、人間をバカにしたり、或いは人間の心ない一言に傷ついたりもしているらしいですから。(動物と話せるというハイジさんの言葉ですが「志村動物園」の)

感情豊か、というのはそうでしょうね。
しかも同じ動物で、それぞれにはっきりとした性格を持っている。
昔、十匹以上の猫と暮らしていたことがありますから、その辺はよくわかります。

ジャンプに失敗して、高いところから滑り落ちたあいつ。
ばつの悪そうな顔してたなあ。
缶詰の中身が、パインだと知った時のあいつ。
ふてくされた顔してたなあ。

今思えば、笑ってはいけなかったのかもしれない。
愛すべき猫たちよ、プライドを傷つけるつもりはなかったんだ。許してくれ。

> 朱鷺は割と他人さまの作品に関して(プロ作家さんに対してですが)はリアリティは厳しく求めます。なんというか、魔法を使うとか偶然が起こるとかってのとは別に、感情の動きに関してですかね。

感情の動き、ということでいえば、私もたまに首を傾げてしまうことがあります。
本格ミステリーと呼ばれる作品に多いでしょうか。
なにか、物凄く長い推理クイズを読まされているような、人間らしさ無視の物語っていうのもありますよね。

> 感情を細かく描写する必要はないですが、その抱いた筈の感情に寄る次の行動に納得出来ないものは読んでいて不快です。
> 特に、そう! 殺人の動機なんかは、納得し得るものが必要です。
> なんで、そんなことで? というのはその種類に寄るかな。

『罪と罰』の主人公。彼の殺人の動機には衝撃を受けました。
非凡な人間は、人を殺しても許されるのではないか。
これ、納得するしないというより、こういう考えの人がいても不思議じゃない、と思わせる怖さがありました。
非凡な筆力があれば、どんな話でもリアリティを生み出せる、ということになるのかな?
ああ、非凡な才能が欲しい!

プロフィール

片瀬みこと

Author:片瀬みこと
札幌在住のアマチュア作家

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