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エッセイ 聞く読書

聞く読書

 食事をする時には、読書をしながら、というのが多いですね。
 これだけだと、どうしても行儀の悪い人の発言に聞こえてしまうかもしれない。しかし、私にとっては当たり前の日常。もう七、八年ぐらいは続いているだろうか。きっかけは、悪化した目の病気。そして私は、新たな読書法“聞く読書”というものを知ることとなったのである。
 必要な物は、デイジー図書と、専用の再生機、または再生ソフト。
 デイジー図書とは、小説などを読み上げた音声データのこと。ちなみにこの読み上げ作業のことを“音訳”といい、“朗読”という呼び名とは区別されている。
 サピエ会員というものになると、そのサイトから自由にデータをダウンロードすることができるようになる。その数、数万タイトル。もちろんこれは、音訳ボランティアの皆さんの力によって成り立っているシステムだ。
 読み上げる声の後ろで、たまに別の音がかすかに漏れ聞こえてくることがある。ボランティアさんの日常が、そこにはあった。
 洗濯機の音。ああ、この人は、家事の合間に録音してくれてるんだ。感謝。
 子供のはしゃぎ声。ああ、この人は、子育ての合間に録音してくれてるんだ。感謝。
 食器を叩きつけたかのような音。まさか、この人、夫婦げんか中では? ちょっと心配。でも、やっぱり感謝。
 激しく吠え続ける犬。もしかして、不審者が近くに来ているのでは? この人大丈夫だろうか。ちょっと胸騒ぎ。でも、やっぱり感謝。
 とにかく、この人たちのおかげで、私の読書生活は無事成り立っている。大きく感謝。
 視覚による読書と、聴覚による読書。同じ文字情報を知るといっても、やはりその二つにはいくつかの違いがある。
 視覚による読書には、表記されている文字の影響というものがあるだろう。どんな漢字が使われているのかはもちろん、普通は漢字で書き表される部分に、ひらがなや、カタカナが使われている場合などがそれに当たる。他に、開いたページの中で、チラリと終わりの方の文章が目に入ってしまうということもあるかもしれない。
 一報、音訳者の読み方によって影響を受けるのが、聴覚を使った読書である。男女の違いも含め、読み上げをする人の声質というものは、その物語の印象を左右する要素となりうる。
 ところが、意外とそうでもなかった。というのがここからの話。
 よほど無茶苦茶な読み上げ方をしない限り、音訳者の違いは、実際それほど大きな問題にはならない。ならなくなってきた、という言い方が正しいのかもしれない。
 つまりは経験である。大げさに言えば、経験による脳の進化である。聴覚による読書歴が数年ともなると、耳で捕えた声は、あっという間に脳で変換処理されるようになるのだ。自分がイメージする通りの声質という意味である。「畜生、サツが追ってきやがった」という中年女性の声も、一人前の暴力団員の声としてしっかり認識される。「ママ、新しいお洋服が欲しい」という中年男性の声も、可愛らしい女の子の声としてしっかり認識される。
 人間の脳って不思議、などと改めて思ったりもするのだが、考えてみれば何てことはない。似たような脳の働きなら他にだってあるのだ。小説を読みながら、頭の中でその映像を思い浮かべる、というのがまさしくそれである。
 同じ小説を読んでいても、自分がイメージする登場人物たちと、他人がイメージするそれとでは、やはり大きな違いがあるのだろう。小説のドラマ化や映画化の際、「小説のイメージと違う」や、「小説のイメージ通り」という感想をよく耳にする。しかも同じ作品に対しても。
 当たり前といえば当たり前の話だが、小説とは、それだけ受け止める側の自由度が高い表現なのだ。それは活字情報であろうと、音声情報であろうと変わらない。こうなると、視覚による読書も、聴覚による読書も、あまり違いがないようにも思えてくる。
 聞く読書ならではの特徴を、あえて探すとするなら、言葉の持つ魅力が明確化される、という点が上げられるかもしれない。これは、私が最近になって気づいたことである。
 小説を読んでいると、センスのいい言葉や、インパクトの強い言葉など、ストーリーとは別に、言葉そのものに魅力を感じるということがある。私の場合、聞く読書を始めてから、こういった感想を抱くことが多くなった。それはなぜか。
 良くも悪くも、言葉は音にすることで明確化される。というのが、私の出した答えだ。力のある言葉は、より力強く、印象深い言葉は、より研ぎ澄まされて聞こえる。“悪くも”というのは、文字通り、駄目な言葉は、よりいっそう駄目に聞こえてしまうという意味だ。平凡な言葉は、あくびが出るほど退屈に、大げさな言葉は、呆れるほどわざとらしく、という具合にである。
 耳で捕えた会話文は、特にその善し悪しがはっきりしてくる。活字の状態では目立たなかった不自然さも、音声化されたセリフではごまかしが効かない。これは音読によっても確認できるだろう。こんな言い方する人はいないよ、といった風に聞こえることは非常に多い。
 書き手の立場として、一つ教訓になったことがある。書いた文章、特に会話文は声に出して確認すべき、ということ。それが、生き生きとした会話文を書くための鉄則だ。
 考えてみると、文字によるコミュニケーションよりも、会話によるコミュニケーションの方が、ずっと歴史は古いのだ。そう。言葉は声から生まれ、やがて文字へと進化したのである。
 偉大な声の力によって、私に読書の喜びを与えてくれる、音訳ボランティアの皆さんに改めて感謝!

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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Re: こんばんは

鍵コメMさん、コメントありがとうございました。

音訳駆け出しの一年生とのこと。
たぶん女性の方でしょうかね。
対面朗読のお願いはまだしたことがなかったので、こうした形で、音訳ボランティアさんと関わることができてうれしかったです。

私の場合、小説が好きになったのは、目が不自由になってからのこと。
今では、自分でも趣味で執筆活動をするまでになりました。
これも、ボランティアの皆さんのおかげです。ありがとうございました。

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Re: No title

鍵コメGさん、大丈夫ですか?(笑)

> すまほから長文コメント失敗です。
> また、コメントいたします。

Gさん、スマートフォン使ってるんですね。
使いこなすところまでは、まだいってないのかな?(笑)

私は、いまだに携帯電話です。
ついでに、実家には、いまだに黒電話があります。

Re: No title

鍵コメGさん、コメントありがとうございます。

> 蹄が太くてスマホが上手く使えない鍵コメGで~す!

そういう理由でしたか。
スマホも、まだまだ改良の余地がありそう。

> どういう境遇であっても、読書を楽しんでいられるって素敵だなって思いました。

目が不自由=点字と思われる方が多いんじゃないでしょうか。
実際は、点字が苦手という人は結構いるんですよ。私もその一人です。
デイジー図書もそうですが、今は本当に便利な時代になりました。
特にその中でも、パソコンが使えるというのが大きいですね。

パソコンを操作するには、音声読み上げソフト(スクリーンリーダーと言います)を使います。これによって、画面上の文字を、自動読み上げさせるわけです。
マウスで操作できることは、ある程度キーボードでもできます。
文書作成ももちろん可能になります。

ただ、困ったこともいくつかありますね。
たとえば、画像認証がその一つです。
画像の中の文字は、あくまで画像としか認識できないということなんです。
気に入ったブログの記事に、コメントを出そうとすると、最終段階になって画像認証が出てくる場合があります。
こうなると、もうどうすることもできない、というわけなんですよね。
これで何度がっかりしたことか。

鍵コメGさんのように、画像認証の設定を外してくれている方々には感謝です。
蹄が太いぐらい、たいした問題じゃないですよ(笑)

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Re: No title

鍵コメGさん、コメントありがとうございます。

> コメントの認証って、必要なのかなぁ?
> 面倒なだけだと思います。

そう。面倒ですよね。しかも、一部の人にとっては、「これ以上、先に進むな」と言われてるのと同じですから。
とはいえ、悪質ないたずらコメントを避けるために、という人もいるんだと思います。
うーん。画像認証に変わる、何か新しいシステムはないんでしょうかね。

> 拍手コメントだと認証は有りませんよ。
> あと、足跡の右側のブロともをクリックして、左側の、このユーザーにメッセージを送るって所からも認証無しでメッセージを送れますよ。
> メールフォームもね。
>
> みことさんなら知っていらっしゃるとは思いましたが、蹄を駆使して書いてみました。

いろいろと気を使っていただき、ありがとうございます。
Gさんからのコメント、いつも温かな気持ちになります。
この暖かさを使って、外の雪をなんとかできないものかなあ。
札幌は今日も、蹄が埋まってしまうほどの大雪でした。

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Re: No title

鍵コメGさん、コメントありがとうございます。

> こちらは昼間の車内では、クーラーを点けるほどの陽気ですよ。
> 桜も、3割ほどの咲き具合です。
> すっかり、裸族が復活しました。

同じ日本でも、本当に違うものなんですよね。
桜、札幌では、毎年ゴールデンウィークぐらいですから。
私は、どうせ花よりスイーツですけど。

> 認証画面以外は、PCが便利な時代で良かったです。
> おかげで、みことさんと出逢えました。

そうですね。
パソコンがない生活、というのは今では想像もつかないくらいです。
執筆活動はもちろん。情報収集が容易にできるというのが大きいですね。
昔の作家さんたちは、図書館に通っていろいろ調べてたんでしょうから。

あーあ。でも、今なかなか次回作のプロットがまとめられずにいます。
これはまた別問題なんでしょう。
いつか、パソコンが小説を創作する時代が来るんですかね。

プロフィール

片瀬みこと

Author:片瀬みこと
札幌在住のアマチュア作家

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