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雨と虹の日々 17 プレゼントが嫌い

17 プレゼントが嫌い

 俺はプレゼントが嫌いだ。
 生きるために必要な物なんて、そう多くあるわけじゃない。猫ならなおさら。人間だろうと、そうは変わらないはずだ。やがてはごみと化してしまうプレゼント。それを承知の上で、人はなおも無駄遣いを繰り返す。残念なことに、虹子は特にその傾向が強い。浪費癖、と言っても言いすぎではないだろう。
 あまり外出することの多くない虹子だが、もちろん、何らかの用事で部屋を離れることだってたまにはある。その際、帰宅した彼女が、必ずと言っていいほど手にしているものがあった。俺に対するプレゼントである。つまりは、ごみになるという運命を背負ったプレゼントである。
 ボールや紐状の猫じゃらしはもちろんのこと、ネズミや小鳥、昆虫などを象った猫用玩具の数々。中には電動式のものや、マタタビの香りがするものまである。今じゃあその数も、他の猫にただで配ってやりたいぐらい集まっちまった。
 おもちゃのタイプは様々あれど、開発者の狙いはただ一つ。俺たち猫の狩猟本能を刺激する、というのがそれだ。やつらの企みぐらい、とっくにお見通しだぜ。こんな形にすれば、こんな匂いにすれば、こんな動きにすれば、猫は興奮して飛びつくに違いない。あきれるほど単純な発想である。しかし俺たちは、そのあきれるほど単純な発想に、いつもだまされてしまう運命にあるのだった。
「これ、プレゼント」
 虹子の口から、もうすっかり耳馴染みになったフレーズが聞こえた。いつもと違うのは、それが俺に向けられたものではないということである。
「ええと……。ど、どうもです。でも、どうして?」
 直人の表情に、はっきりとした戸惑いの色が浮かぶ。目の前には、リボンの付いた大きな袋。たった今、突然虹子から差し出されたものである。
「だから、直人君へのプレゼントだってば。早く開けてみて」
「あ、ですよね。すいませんです。でも……」
「別に、危険な物が入ってるわけじゃないんだから、早く」
 結局は、虹子自らが袋を開けることとなった。「じれったいなあ」などと文句を言いつつも、その表情はなぜか楽しげに見える。
「ライブの時に、いいんじゃないかと思ってね」
 袋の中から、いくつかの箱と紙包みが取り出される。それら一つ一つにまで、しっかりとリボンの飾り付けがされていた。
「もうすぐだよね、ライブの日」
「あ、はい。もう、すぐですけど……」
 虹子の言動に、ただただ当惑するばかりの直人である。時折、サイドボードの上にいる俺に向かって、助けを求めるような視線を送ってくる。
「二十六・五でよかったんだよね?」
 虹子が手にしているのは、男性物の黒い革靴。曖昧にうなずく直人に、半ば押しつけるように手渡すと、今度は俺の方を向き、「レイン、空き箱だよ」と、はしゃいだ声を上げた。たった今まで靴が収められていた箱を、指先を使ってトントントンと叩いている。その程度のもので、この俺が喜ぶとでも思っているのだろうか。やれやれ、俺もずいぶんとガキ扱いされたもんだぜ。
「そんなに慌てなくたって、誰も取ったりしないよ」
 結局のところ、サイドボードの上から勢いよく飛び降りた俺は、空き箱めがけて、一目散に走り出すのだった。大好きな物を誰かに取られるぐらいなら、ガキ扱いされる方がよっぽどましなのである。
「ちょっと、小さすぎるかなあ」
 空き箱の中は、予想通り快適だった。虹子が心配するほど小さくもない。むしろ、横向きに寝た時の、頭と背中を壁に押しつけるようなこの感じ、この包みこまれているような安心感が、何とも言えぬ心地良さを与えてくれるのだ。
「大丈夫みたいだね」
 大丈夫などころか、ここ最近の空き箱の中では、トップスリーに入れてもいいぐらいだぜ。やはり紙製の箱はいい。プラスチックや金属製のものと違って、暖かなぬくもりってやつを味あわせてくれる。
「ああ、良かった。サイズが合うかどうか、ちょっと心配だったの」
 そいつは杞憂ってもんだぜ。猫の柔軟性に満ちたこの肉体を、これからはあまり見くびらないことだな。
「やっぱりね。黒が似合うと思ってたの」
 いくらなんでも、黒猫に向かってその言い草はないだろう。もしジョークのつもりで言ったのなら、今のは聞かなかったことにしてやる。
「ステージ衣装は、これで決まりだね」
「ニャッ?」
 俺は大急ぎで飛び起き、ソファーに座る虹子を見上げた。そしてすぐに合点した。無邪気に微笑む彼女の瞳には、箱好きの黒猫の姿など映ってはいなかったのである。
「どうして、ここまで……」
 直人の表情は複雑だ。笑顔ではあるものの、虹子のそれとはまるで違っている。思いがけないプレゼントは、時に人を困惑させることもあるのだ。
 テーブルの上には、シャツやらズボンやら上着やらが広げられている。先ほどまで、紙包みに収められていたものらしい。中には、腕時計やサングラスといったものまである。相手を戸惑わせるには、十分すぎるほどの代物だ。
「プレゼントしたいと思ったから、そうしただけじゃない。それっていけないこと?」
 虹子の声音は、それまでとはやや違ったものになっていた。靴を脱ぎ始める直人を見て、「好みに合わないってことなら仕方ないけど」と、不満げに口を尖らせる。
「す、すいませんです。好みとかの問題じゃなくて……」
 手に取った靴を、どうしていいのかわからないのだろう。直人の視線はキョロキョロと落ち着きがない。ややあって、箱の中の俺に気づくと、「猫って、狭い場所が好きなんですよね」と、いきなり話題を変えた。
「レインが好きなのは、紙でできた箱。狭ければ何でもいいってことじゃないみたい」
 不承不承といった口調で答える虹子。俺の好みについては、さすがによく理解しているようだ。
「キャリーバッグなんて、見ただけで逃げ出しちゃうの」
 理解しすぎるというのも考え物である。
「へえ、どうしてだろう。ああいうの、普通の猫だったら喜びそうなんだけど」
 俺を見つめる直人の瞳が、好奇心によってキラリと輝いた。余計な好奇心である。余計なキラリである。
「たぶん、嫌なことを連想しちゃうんだと思う」
「嫌なことって?」
「ちょっと前に、遠くまで出かけたことがあったの。レインと一緒にね。その時に使ったのが、キャリーバッグだったってわけ」
「ああ、そういうことか。レイン、どこかに捨てられるって思ったんじゃないのかな」
「それは違う。はっきりとした理由は他にあるからね」
「え、どんな?」
「ううん、どうしようかなあ。レインの名誉に関わることだし……。誰にも言わないって約束してくれたら、直人君にだけは教えてあげてもいいけど……」
 真剣な表情でうなずく直人だったが、虹子の話を聞くや否や、たちまち顔の筋肉をだらしなく緩めた。虹子も笑いに耐えるように、「ねえ、悲しい過去でしょ?」と声を震わせる。
 プレゼントをきっかけに、ぎくしゃくしていた二人の関係も、秘密を共有するという手段によって、無事解決したようである。何がそんなに面白いのかはわからない。ただ、旅先で猫がおもらししたという話には、どうやら人を笑顔に変える力があるらしいことだけはわかった。
 俺にとっては苦すぎる思い出である。誰にも知られたくなかった秘密である。虹子はそれを、たった今あっさりとバラしてしまった。普通なら、当然腹を立てていただろう。彼女に対して、憎しみを抱いたとしても不思議ではないはずだ。しかし、そんな気持ちは、いつまで経っても俺の中から沸き起ってはこなかった。
 俺は虹子の笑顔が好きだ。すべてはその一言で説明がつく。彼女が笑顔でいてくれたらそれでいい。あとはもう何も望むまい。猫の寿命ってやつが、いったいどれぐらいなのかはわからないが、残されたこれからの時間は、虹子の笑顔を守るために使おう。そいつが、俺からのささやかなプレゼントだぜ。

虹色日記

 RC、人に何かプレゼントするの好きなんです。昔からそうでした。相手を喜ばせたいっていうのはもちろん、プレゼントは、RCにとって最大の防御手段でもあるんです。要するに、たいていの問題はお金が解決してくれるってこと。
 今日は、バンド仲間でもあるSP君に、とっておきのプレゼントをしました。ところが、期待していたような反応は返ってきませんでした。これにはRC、ちょっとだけがっかりしましたよ。もっと素直に喜んでもらえると思ったのに。レインみたいにね。
 そうそう。レインが箱好きだっていう話、まだ書いてなかったですよね。今までにも、いろんな猫用のおもちゃ買ってきたんですけど、結局、一番レインのハートを掴んだのは、ただの空き箱でした。“ただの”と言っても、レインなりに強いこだわりがあるらしいんですけどね。
 紙製、しかも表面があまりツルツルしてない物。大きさは、身体が収まるギリギリのサイズの物。RCの知る限りでは、それがレインの好みらしいです。このあたり、かなりうるさいんですよ。妥協は絶対に許さないって感じ。
 その代わり、自分の好みの箱を見つけた時の、レインのあの喜びようったら、こっちまで幸せな気分になっちゃう。SP君にも、その辺は見習ってほしいなあ。ただ遠慮してるだけなのか、本当に気に入らない物だったのか、それすらはっきりしない。RCが、せっかく苦労して選んだっていうのに、SP君のあの反応には、やっぱりショックだったなあ。
 詳しいことは、あまり教えてくれないんですが、SP君も、何かいろいろと複雑な問題を抱えてるようなんです。いわゆる家庭の事情ってやつですね。人に知られたくないっていう気持ち、よくわかります。RC自身がそうですからね。だから、無理に聞き出そうという気はないんです。ただ、何かの力にはなりたい。
 RCにはお金がある。贅沢な生活ができるほどのお金。SP君が置かれた立場とは、そこが大きく違ってる。今回のプレゼントは、そのことをアピールする意味もあったんです。
 お母さんの行方がわからないんだ、とSP君が言っていたことがあった。それって、お金でどうにかならないのかなあ。人をたくさん雇って、探し出すことぐらい簡単なんだけどなあ。
 詳しい事情も知らないくせに、RCの方から、協力させてくれって言うのは、やっぱり変ですよね。変というより、余計なお世話ってことになるのかな。だからといって、SP君の秘密を追求するような真似もしたくないし。
 今思ったんですけど、こっそり調べるっていう手もありましたね。それなら、誰も傷つかない。もしも、調査結果がよくないものだったら、そのまま知らんぷりすればいいだけですからね。
 ああ、でもそれって、やっぱりちょっと怖いなあ。すでにお母さんは亡くなっていた、なんて事実が、もしわかったとして、RC、それを黙っていられるんだろうか。正直に教えてあげる方が、SP君のためになるのかなあ。あくまで、もしもの話なんですけどね。
 考え出すと、いつもそうなんですけど、悪い方へ悪い方へと想像が広がってしまう。RCのこの性格だけは、お金の力を使ってもどうすることもできないみたいです。意外とSP君のお母さん、今頃どこか南の島で、のんびりとバカンスを楽しんでる最中なのかも。
 皆さんの明日に、どうか虹色の橋がかかりますように!

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18 家族が嫌い
雨と虹の日々 目次

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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Re: No title

鍵コメフェチさん、コメントありがとうございます。

今回は、かなり二枚目なレインでした。
キザな言葉も、このキャラクターだからこそ許される。そういうのって、他にもありますよね。
普段は、憎まれ口ばかりの偏屈者が、一瞬だけ垣間見せる純粋さ。やはり、こういうギャップがいいのかな。

あ、そうそう、一つ思い出しました。
『カリオストロの城』のラストシーンで、銭形が口にするあの有名なセリフ。
あれが、“許されるキザ”の代表例でしょうね。

恐るべしギャップ効果!

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Re: No title

鍵コメフェチさん、おはようございます。二日酔いになってませんか?

小説の先の展開って、いろいろとを思い浮かべてしまいますよね。
レインの最後に、どんな悲しい出来事があったんでしょうか?
連載が終了した後にでも、ぜひ教えてください。
そういえば、私もついつい悲劇的な方向へ、想像してしまうことが多いですね。これって、正確によって違ってくるのかな。

No title

猫が好きな、紙製の箱。それも大きすぎないサイズ。
そうそう、と、思わず共感してしまいました。
ダンボールも大好きですよね。
猫らしいところはしっかり猫なんだけど、ちょっとキザで男前なレインが、とてもいいです。

この直人くん、よく登場してきますが、なにか重要なキャラの一人になるのでしょうか。
そんなところも気になる、今回のお話でした。

Re: No title

limeさん、コメントありがとうございます。

> 猫が好きな、紙製の箱。それも大きすぎないサイズ。
> そうそう、と、思わず共感してしまいました。

limeさんも、猫を飼っていたことがあったんですよね。
昔うちにいた猫のことで思い出すのが、ゴミ捨て場に積み重ねられていたダンボールの話。その一番上に座る彼の表情は、なぜか勝ち誇ったかのような満足顔でした。もうちょっとで、ゴミと一緒に回収されそうになってましたけどね。

箱もそうですけど、猫って、専用のおもちゃより、もっとシンプルな物を好んでいませんでしたか?
うちの猫のお気に入りは、ピンポン玉、リングプル(昔は、缶からはずれましたよね)、そして、なぜか湿布薬。
透明なボールの中に、小鳥が入ってるっていう猫用のおもちゃがあったんですけど、それにはまったく関心を示さなかったなあ。
商品開発した人も、まさかリングプルに負けるとは思っていなかっただろうに。

ああ、猫の話をし出すとキリがなくなる。

No title

ささやかなプレゼントだぜ、が粋だぜ、レイン。

プレゼントって、豪勢ではなく、ささやかなほうが喜ばれたりしますよね。
電話で一言とか、プルトップとか。何でそれに夢中? ってくらいに。

虹子さんの笑顔に対して、笑顔返しができるか、レイン。
猫って、笑顔ありましたっけ?

Re: No title

けいさん、コメントありがとうございます。

> ささやかなプレゼントだぜ、が粋だぜ、レイン。

これ、なかなか口にできないセリフでしょうね。
外国生活の長いけいさんだったら、もしかして、キザな言葉も抵抗なく言えるのかな。

> プレゼントって、豪勢ではなく、ささやかなほうが喜ばれたりしますよね。

そうですね。物によっては、相手に重荷を与えることにもなってしまいますからね。今回の直人が、まさにそう。

> 虹子さんの笑顔に対して、笑顔返しができるか、レイン。
> 猫って、笑顔ありましたっけ?

笑顔、もちろんありますよ。
笑い声を上げることはさすがにないですけど、ニコニコと満足そうな笑顔はあります。
他にも、自慢げな顔、途方にくれた顔、納得のいかない顔、白けた顔、悔しそうな顔などなど、猫の表情はびっくりするほど豊かです。
でも、これってきっと、長い間猫を飼った人にしか、見分けることができないのかも。

プレゼントは最大の防御手段

分かります、それ。
そして、

>正直に教えてあげる方が、SP君のためになるのかなあ

↑これ、本当に思います。
幼いころは真実という力をまったく疑いなく信じていました。
だけど、癌の告知or否か、という問題を皮切りとして、特に今年は周囲の身近な人の死、それに元気だった人が弱々しく年老いていく様を否応なしに見続けていたら。

たとえば、その人の最期を安らかにするために吐く嘘は悪だろうか? と。

お金の力も、幸せという勢いも。
虹子さんは、少しずつ閉じこもっていた狭い安全な場所から外の世界へと足を踏み出していますね、きっとそれは「守るべきもの」を得たからかな。
そして。ここのところ、レインは、次第に「守りたい」という姿勢が出てきましたねぇ。

生き物は、支えあえるのは、守るべきものを守るためなんだろうな、と。

久々のコメでしたが、storyはずっと追わせていただいております~♪

Re: プレゼントは最大の防御手段

朱鷺さん、コメントありがとうございます。

元気だった人が弱々しく年老いていく様子を見るのは、確かに辛いものですね。
朱鷺さんは、職業柄、特にそう感じることが多いんだろうなあ。
あの辛さの正体は何でしょう。自分ではどうすることもできないという無力感? その人との別れが近づいているという予感? 死イコール不幸、という価値観?
もちろん答えはでない。答えがでないからこそ、文学のテーマとなりうるのでしょうね。

> そして。ここのところ、レインは、次第に「守りたい」という姿勢が出てきましたねぇ


はい。だんだん猫っぽさからはなれてきました(笑)
あ、でも、動物的な感が働いたのかもしれない。虹子の周りに漂う不穏な空気を。

プロフィール

片瀬みこと

Author:片瀬みこと
札幌在住のアマチュア作家

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