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雨と虹の日々 12 宝石が嫌い

12 宝石が嫌い

 俺は宝石が嫌いだ。
 あの小さな石っころ。人間にとって、ことに女にとっては、何やら特別な価値があるらしい。指にはめたり、耳や頸からぶら下げたりすることで、自分の美しさを引き立てているのだという。その目的がうまく果たされているかどうかは別として、私は強欲な人間です、というアピールには成功しているようだ。
「さっきも言いましたけど、モデルのお仕事は、ただのバイトですよ。ああいう世界が、私に向いてるとも思えないですし」
 はしゃいだ声を上げつつ、麗子は大げさにかぶりを振った。耳たぶにぶら下がっている石っころが、そのたびに目障りな光を放つ。
 部屋には、バンドメンバー全員が顔を揃えていた。さらにもう一人、宝田と名乗る男が、先ほどから、麗子のことをしきりにほめそやしているところだった。
「何もバンド活動だけにこだわらなくたって、麗子ちゃんぐらいのルックスがあれば、それを利用しない手はないよ」
 宝田は、斜向かいに座る麗子の方へ、半ば身を乗り出すようにしている。年齢はよくわからない。ジーンズにTシャツという格好と、目尻にはっきりと刻みこまれた皺とが、妙にアンバランスに見える。
「もし、バンドにとってプラスになることなら、私、どんなことでもするつもりではいますけど……」
 麗子は首を傾げ、困ったような微笑みを浮かべた。すぐさま、「そうこなくっちゃ」と宝田が声を弾ませる。
 麗子と宝田。今は完全に二人だけの世界になっていた。直人は、ただ黙って麗子の隣でギターをいじくっている。秋男は、居心地の悪そうな顔をして宝田の隣で貧乏揺すりをしている。広道は、退屈そうにピアノの前の椅子で大あくびをかいている。そして虹子は、立ったままサイドボードの上の俺を撫で続けている。
「何といっても、ボーカルはバンドの顔だからね。まずは麗子ちゃんを前面に出して……」
「そ、そんなことより……」
 麗子は、宝田の前で軽く片手を上げ、いつまでも続きそうなそのおしゃべりを中断させた。「デモテープ聴いてくれました?」と、早口で続ける。
「ああ、もちろん聞かせてもらったよ。そのせいだよ。ついついこんなに興奮してしゃべっちゃってるのも」
 うれしそうに眼を細める宝田。他のメンバーが、ますます視界に入らなくなりそうなほどの細さだ。
 それとは逆に、瞳を大きく見開いたのは麗子である。宝石のように輝くその瞳には、やはり他のメンバーの姿は映らないようだった。
 ややあって、大きな咳払いが聞こえた。全員の視線が広道に集まる。
「で、どうなんですか、俺らの音楽は? ボーカリストが美人だっていう以外に、何か一つぐらいいいとこありますか?」
 頬のあたりをかきながら、広道が面倒くさそうに言った。秋男も、「良く聴かないと、ベースは目立たないからなあ」と小声で付け足す。
「麗子ちゃん以外のことで上げるとすれば……」
 もったいつけるように、宝田はそこでいったん言葉を切った。全員の視線が、広道から宝田へと移る。秋男の、「もしかして、ベースのテク……」という声がかすかに聞こえた。
「直人君は、なかなかのセンスをしてると思うよ。ギターというより、作曲についてのことだけど」
 直人が、照れくさそうにペコリと頭を下げた。隣では、麗子が満足そうにうなずいている。一人うなだれているのは秋男だ。
「幸助君が残した楽曲が月だとすると、直人君の作品は太陽、いや、このたとえはちょっと陳腐すぎるかな。とにかく、この対比が面白い。二つの異なるカラーを持ってる。これは、このバンドとしての、かなりの強みになるはずだよ。幸助作品が、森に囲まれた湖だとすると、直人作品は、海に浮かぶ小島。いや、ちょっと違うな。幸助作品が……」
 納得のいくたとえが見つからないのだろう。胸の前で腕を組んだまま、宝田は口の中でブツブツと言い続けている。
 メンバーの反応は、真っ二つに分かれていた。麗子と直人の満足顔チームと、広道と秋男の不満顔チームである。
 虹子はといえば……。俺にはよくわからない。その顔からは、どんな感情も読み取ることができなかった。俺のことをじっと見つめたまま、先ほどから何やら小声で言い続けている。「私にはできる」だとか、「私は戦士」などと聞こえるのだが気のせいだろうか。
「宝田さん?」
 麗子に声をかけられ、宝田がハッと我にかえったような顔つきになる。
「ごめんごめん。つい自分の世界に入りこんでしまった」
「アーティスト魂、蘇ってきたんじゃないんですか?」
 いたずらっぽく微笑する麗子に、宝田は苦笑し、直人は「アーティスト?」と首を傾げている。
「宝田さんも、プロを目指して、バンド活動やってたことあるらしいの」
 麗子がすぐさま説明を加えた。
「昔も昔、大昔の話だよ。自分には、とんでもないほどの才能があるって、そう信じていた頃の、いや、あれは単なる自惚れだな」
「そんなあ。今度、ぜひみんなにも歌声聞かせてあげてくださいよ」
「おだてるなよ。だんだんその気になってきたじゃないか。夢を追いかけていても許される歳は、もうとっくに過ぎてるんだ」
「生意気言うようですけど、年齢制限なんてものはありませんよ。夢を追うこと、あと、恋をすることにもね」
「まいったな。どんどん話が脇道にそれていくじゃないか」
「ごめんなさい。出しゃばりすぎでした。うちのメンバーにも、早く宝田さんのことわかってもらいたくて」
 麗子と宝田。再び二人だけの世界へ入りこんでしまったようだ。秋男の、「ベースは損だよなあ」という呟きなど、まったく耳には届いていないらしい。
「麗子からは、何かビッグニュースがあるって聞いてたんですけど……」
 広道の問いかけに対しては、すぐに反応があった。「そうなんだ」と、宝田は一度部屋にいる全員の顔を見渡した。
「近く、大きなライブイベントがあってね。もちろん、プロミュージシャンもたくさん参加するイベントだ。そのステージに、何組かのアマチュアバンドを出そうってことになってて……」
 話を聞いてる途中から、広道の表情はみるみる変化していった。先ほどまでの不満顔は、どこかへ飛んで行ってしまったらしい。秋男も、「ついに、ベーシストにも光が」などと声を震わせている。
「夢を追いかけていても許される歳は、もうとっくに過ぎてるってさっき言ったけど、実は、まだ俺の夢は終わりじゃない。いや、一度消えかけた何かが、再燃したと言った方がいいかな。うん、今の表現はしっくりくるな。火をつけたのは君たちだ。俺はその火を、でっかい炎にまで育て上げるつもりだ。君たちを必ずビッグにする。それが、俺の夢の続きだ。ううん。今のはちょっとくさすぎるかな」
 ややあってから、麗子が、「というわけなの」と声を弾ませた。
「私たちのバンドのマネージメント、宝田さんに任せようと思ってるの。全面的にね。何か異議ある人いる? いるはずないか。ああ、今日は何だかすごい日になっちゃった。記念すべき日。船出の瞬間って感じ。宝箱を探しに行く冒険家かなあ。大きな宝石がいっぱい詰まった宝の箱。ああ、今のこの気持ち、どう表現すればいいんだろう」
「さすが麗子ちゃん、表現力豊かだね。作詞をやってるだけのことはある」
 その瞬間、今まで俺の頭を撫でていた虹子の手がピタリと止まった。広道、秋男、直人の三人が、チラリとこちらに目を向けた。
「表現力豊かなのは、宝田さんの方ですよ」
 麗子はなおも興奮状態にあるようだ。いつも以上に甲高い声。そして満面の笑み。
「そんなに感激したんだったら、今日のことも、いつか詞にするといい。亡くなった幸助君のエピソードも、一つ二つ絡めて書くといいんじゃないかな。実際この幸運は、幸助君の魂が引き寄せてくれたのかもしれないしね」
「違う!」
 突然の叫びだった。
 俺を含め、すべての視線が、いっせいに虹子へと向けられる。口をポカンと開けっ放しにしている宝田。キョロキョロとあたりを見回し始める直人。眉根を寄せたまま微動だにしない広道。「お腹が痛くなってきた」と小声で訴える秋男。そして、中途半端な笑顔を凍りつかせている麗子。
 重たい静寂が室内を占拠している。沈黙を作り出したのは虹子だ。そしてこの沈黙を、彼女自らが破ることとなった。
「麗子なんかじゃない。詞を書いたのは私。こ、幸助の、幸助の恋人だったのも、この私なんだから!」

虹色日記

 RC、今日はブログお休みしようかと思いました。へとへとなんです。でも、報告ぐらいはしなきゃ、応援してくれる皆さんに申しわけないですからね。もうちょっとだけ気を失うの我慢します。
 真実を口にするって、こんなにエネルギーがいることなんですね。そのことがよくわかりました。ということは、やっぱり今日は、RCにとってすごく重要な日だったってことなんですよね。
 皆さんにどう伝えればいいんだろう、この感じ。長い間いじめられっ子だった子供が、いきなり逆襲に出たとしたら、きっとこんな空気になるんじゃないのかなあ。みんなの顔、写真に撮っておきたいぐらいでしたよ。何か、起きてはいけないことが起きてしまったような、自分たちの耳を疑ってしまうような、伝説上の生物を目撃してしまったような、全員そんな表情してましたね。もちろんBCもですよ。あの気位が高いBCもです。
 でも、さすがにその後は気まずい空気でした。よくあるヒーローものみたいにはいきませんね。戦いが終わっても、すぐにその場から姿を消すなんてことは無理です。現実にはそんなカッコよくいきません。だいたい、戦いの舞台がRCのマンションなんですから。
 今日のところは、いったん解散しよう。もし、WRのその言葉がなかったとしたら、今頃どうなっていたことか。百パーセント修羅場だったと思います。BCの瞳もメラメラしてましたしね。ああ、思い出しただけでも恐ろしい。胃腸を壊したAMにも、ちょっとだけ助けられた感じ。
 RC、最後はかなり情けない女戦士になってしまいました。レインが、王子様にでも変身してくれれば心強いのになあ。
 そういえば、今度ついにレインを見てもらえることになりました。Mさんにですよ。もしかしたら、そこでHAの言葉を聞くことになるのかも。期待しすぎないようにって、PCさんには言われてるんですけどね。Mさんも、猫に乗り移った霊魂と交信するの、どうやら初めてらしいんです。どうなっちゃうんだろう。うまくいってほしいけど、何だかそれも怖い気がする。
 PCさんには、一緒に付いて来てもらいたいって、さっきメールしたんですけど、無理ばっかり言ってごめんなさい。いいお返事待ってます。その代わりと言うわけじゃないんですけど、レインの写真アップしておきますね。PCさんが好きだって言ってたポーズです。
 「見返りレイン」は、窓の外を眺めている時に、後ろからキャットフードの音で振り向かせました。大成功です。PCさん、もしこの写真気に入ってもらえたら、RCの我儘許してください。一人でMさんに会うなんて、あまりにもハードル高すぎます。たぶん緊張で倒れてしまうかも。何しろRC、女戦士としては、まだ若葉マークなんですから。
 皆さんの明日に、どうか虹色の橋がかかりますように!

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13 狭い場所が嫌い
雨と虹の日々 目次

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

前半の、なんともムズムズした会話。
よくできた台本のようなやり取りが、なにかひと波乱起きて欲しい感を煽りますね。
でも、まさか虹子がひっくり返すとは。
シュールな場面だったのでしょうね。
よく頑張った・・・って、言っていいのか悪いのか。
でも、少し前へ進んだのかも。

しかし、気になります。Mさん・・・。

Re: No title

limeさん、ご訪問ありがとうございます。

何だか最近、どこのブログを拝見しても、暑さの話題ばかりが出てますね。
こちら札幌は、ここ数日、25度前後ってとこでしょうか。
はい、快適です。はい、ごめんなさい。

> よく頑張った・・・って、言っていいのか悪いのか。
> でも、少し前へ進んだのかも。

損得で考えれば、虹子の行動は、きっと間違ってるんだと思います。
でも、こういった選択を迫られるってこと、実際いろんな場面でありそうな気もします。魂を売り渡すと言ったら大げさですけど、損か得かでは割り切れないことって、どんな人の中にでもあるんじゃないかな。これだけは、絶対に譲れないってものがね。

> しかし、気になります。Mさん・・・。

虹子に大きな影響を与える存在、Mさんこと間宮は、次回いよいよ初登場となります。
初めてのお出かけで、レインの身に何かが?

No title

おお。虹子さん、言った・・・
空気、止めちゃったんですかね。

正直になってリスクをとるとしても、結局はその方が正しい選択なのだと思います。
虹子さん、フェイクの宝石ではなく、本物の宝石を掴む方に進んだのでは?

フォトジェニック・レインの画像を見たいですね^^

Re: No title

けいさん、コメントありがとうございます。

> おお。虹子さん、言った・・・
> 空気、止めちゃったんですかね。
>
この、空気が止まるっていう感じ、少しは伝わったでしょうか。
複数の人物が、ある瞬間になって、一斉に口を閉ざす。
ドラマや映画と違って、こういった場面を小説で書くのは難しいです。そもそも複数の人物が登場すること自体が難しい。

> 正直になってリスクをとるとしても、結局はその方が正しい選択なのだと思います。
> 虹子さん、フェイクの宝石ではなく、本物の宝石を掴む方に進んだのでは?

そうですね。
宝石の原石は、きっと自分自身で磨くしかないんでしょう。

プロフィール

片瀬みこと

Author:片瀬みこと
札幌在住のアマチュア作家

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