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雨と虹の日々 11 仕事が嫌い

11 仕事が嫌い

 俺は仕事が嫌いだ。
 食うために働くのだと、人は言う。しかし、食うだけで満足している人間など、果たしているのだろうか。少なくとも、俺はまだお目にかかったことがない。どうやら人って動物は、おのれの胃袋に収まりきらないような、何か得体の知れないものを求め働いているに違いないのだ。
 俺がガキの頃暮らしてた家の主人も、朝になるといつも背広に着替えてたっけ。あれもきっと仕事に行くためだったのだろう。「休みたい、休みたい」が口癖の主人だった。「家のローンを払い終ってからね」が得意な妻だった。いったいどんな仕事をしていたのだろう。やつれ果てた主人の顔を見る限り、食うために働いてるとはどうしても思えなかったのだが。
 それはそうと、俺にとって重要なのは今の暮らしだ。何らかの仕事をしているという気配を、虹子の生活ぶりから感じ取ることはできない。これは実に不可解なことである。人は、働かなければ、食ってはいけないはずではなかったか。最近の彼女はいつも腹を空かしているようだが、それは決して食えないのではなく、ただ単に食うのを我慢しているにすぎない。
 今のところ、生活に困ってる様子もなければ、俺のキャットフードが減らされるということもない。だからといって、もちろん安心するわけにはいかないだろう。近頃の俺は、虹子に対して無警戒すぎていたのかもしれない。彼女の収入源はいったいどこにあるのか。少なくとも、そのことだけでもはっきりさせておきたいもんだ。
「珍しいなあ」
 ドアの向こうから、伯父さんの声が聞こえてきた。陽気な口調が、「虹ちゃんの方から呼んでくれるなんて」と続ける。
 確かに珍しいこと、いや、初めてのことではないだろうか。俺の知る限り、間違いなく虹子は、伯父さんの訪問を迷惑がっていた。大事な話があるから、と今朝の電話で虹子はしゃべっていたが、まさかその相手が伯父さんだったとは思わなかった。
「よお、クロスケ」
 部屋に姿を現すなり、伯父さんは軽く片手を上げた。どうやら、俺に向かっての挨拶らしい。そのまままっすぐ、俺がいるサイドボードへと近づいてくる。
「レインには、かまわないで」
 その鋭い声に、ピタリと伯父さんの動きが止まった。振り返った先にいるのは、もちろん虹子である。伯父さんとともに部屋に入ってきた彼女は、すでにソファーへ腰を下ろしていた。
「あ、ああ。わかってる。何か、大事な話があるんだったよな」
 慌てたようにサイドボードから離れて行く伯父さん。リビングテーブルを挟んで、虹子と向かい合う位置に座る。表情には、明らかに戸惑いの色が浮かんでいた。
「今いろいろと忙しくて、ゆっくりしてる時間ないの」
 厳しい口調だった。ここにいるのは、本物の虹子なのだろうか。ふとそんな疑問さえ湧いてくる。伯父さんが戸惑うのも無理はなかった。いつも一緒にいる俺ですら、こんな彼女を見るのは初めてなのだから。
「虹ちゃん、いったいどうしたってんだ? そんなおっかない顔して」
「いつになったら田舎へ帰るつもり? 仕事だってほったらかしのままなんでしょ? この辺ぶらぶらしてたって、しょうがないじゃな……」
「お、おいおい。落ち着きなさい。どうしたんだ、虹。やっぱり、今日のお前ちょっと変だぞ」
 伯父さんは手の平を虹子へ向けた。黙らせようという目的のようだったが、彼女にはあまり効果がなかったようだ。
「ぜんぜん変なんかじゃない」
 虹子の勢いは止まらない。むしろ激しさを増したようにさえ見える。
「逆に今までが変だったの。我慢ばっかりしてきた今までがね」
「な、何を我慢してきたってんだ? つらいことがあるんなら、いつだって聞いてやるから、まずは少し落ち着きなさい」
「伯父さんに……」
 そこでいったん間を取り、虹子は、「一つお願いがあるの」と続けた。先ほどよりも、やや抑えた声音になっている。
「お願い? ああ、言ってみなさい。……どうした? 伯父さんに遠慮なんかいらないぞ。まあ、私と結婚してくださいっていうのだけは困るけどな」
 伯父さんの口調にも、やっと余裕が出てきたようだ。手の甲で額の汗を拭い、ほっとしたような笑みを虹子へと向ける。
 しかし、伯父さんの笑顔が長続きすることはなかった。
「私に、これ以上付きまとわないでください」
 虹子の言葉が、その場の空気を凍りつかせる。
 絶句する伯父さん。頬のあたりが、ピクピクと数回痙攣した。額からは、また新たな汗が滲み出てきているようだ。
「付きまとわないでってか……」
 ポツリと呟き、伯父さんは大きくため息をついた。顔色がみるみる赤くなっていく。
 何か嫌な予感がする。こういう状態に陥った人間を、俺は今までにも何度か見てきた覚えがあった。とんでもないことをしやがって。昔そう言って俺のことを追いかけてきたやつも、確か真っ赤っ赤なな顔をしてたっけ。彼の植木鉢をトイレ代わりに利用したのが、よっぽどお気に召さないらしかった。
「迷惑なんです」
 虹子がきっぱりと言い放つ。彼女はまだ気づいていないのだろうか。自分のしていることが、火に油を注ぐようなものだということに。植木鉢をトイレ代わりに利用するようなものだということに。
「まさか、たった一人の姪っ子から、そんなこと言われるとは……」
 声が小刻みに震えだす伯父さん。まさに噴火寸前の状態である。
「もう、私の前に姿を見せないでください」
 さらに追い打ちをかける虹子。まさに、銀食器をトイレ代わりに利用するも同然の行為である。
 怒りの打ち上げ花火は、間もなく点火されることになるだろう。
「虹、いい加減に……」
 しかし、俺の予想した通りにはいかなかった。確かに点火されたのだろうが、どうやらそれは線香花火だったらしい。
 中途半端な表情のまま、不意に口を閉ざしてしまった伯父さん。その視線の先は、テーブルの上に置かれた茶封筒に向けられていた。たった今、虹子が差し出したものである。
「な、何だ、これは?」
「伯父さんの大好きなもの」
 その説明だけで、伯父さんには封筒の中身がわかったらしい。表情にあった怒りの色も、今ではすっかり消えてなくなっている。
「ただでとは言わない。これ持って田舎へ帰ってほしいの。ただし、もうここへは来ないで。それが条件」
 伯父さんは、虹子と封筒を交互に見比べながら、必死に何かを思案しているようだった。
 ややあってから、静かに口を開く。
「金の出どころは、いったいどこなんだ?」
 その質問は、まさしく俺が知りたかったことでもある。伯父さんの存在も、たまには役に立つこともあるものだ。
「もちろん、ママが残しておいてくれてたものです」
 即答だった。
「ママがねえ……」
 納得できないといった風に言うと、伯父さんはテーブルの上の茶封筒を手に取った。すぐに封を開け、中身を覗きこむ。
「二百万ある。私が出せるのはそれだけ。それだけあれば、もう十分でしょ」
 早口で言うと、虹子は急に立ち上がり、サイドボードの方へと歩み寄った。「そろそろ、お腹空いたかな」などと俺に話しかけてくる。
「妹が、そんなに貯めこんでたなんて話、俺はまったく聞いてなかったぞ」
「そんなこと、いちいち話すわけないじゃない。伯父さんの金遣いの荒い性格、ママ、すっごく心配してたもん」
 俺の頭を撫でながら、虹子は言った。伯父さんの方を振り返らないまま、「ホステスって、やっぱり儲かるみたい」と続ける。
「ここの家賃も、大学に通う金も、全部ママの遺産ってわけか?」
「そうだってば」
「パパからじゃないのか?」
「違う」
 きっぱりとした返答ではあったが、虹子の手の動きが、ほんの一瞬だけ止まったような気がした。
「俺だって……」
 そこでいったん間を取り、伯父さんは、「ある程度のことは知ってるんだ」と意味ありげに続けた。
「何のこと?」
「もちろん、お前のパパのことだ。お偉い政治家先生のことだよ」
「し、知ってるんなら、その人に、直接聞いてみればいいじゃない」
 虹子の表情には、今やはっきりとした動揺の色が浮かんでいた。室内は、時が止まったように静まり返っている。
 しばらくして、虹子は大きく一度息を吸いこみ、それから、意を決したかのように伯父さんの方を振り返った。
「それ、いらないんだったら、返してもらうけど」
 結局、その言葉が決め手になったようだ。
 茶封筒を慌ててポケットにしまいこむと、伯父さんはようやく重い腰を上げた。部屋を出ていく前に、一度だけ虹子を振り返る。そして、苦々しげに呟いた。
「妹を自殺に追いこんだやつのこと、俺は絶対に許さねえ」

虹色日記

 勇敢な女戦士は、早くもバテバテです。だけど、RCやりましたよ。第一の難関は無事突破です。伯父さん追っ払い作戦は、一応成功しました。あくまでも一応ですけどね。
 こうしてパソコンの前に座ってる今でも、まだ心臓のドキドキが続いてます。伯父さんと対決してる時も、いつ倒れてしまっても不思議じゃない状態でした。
 今回も、Mさんのアドバイスが効きました。呼吸法と自己暗示プラス、途中からはレインの力も借りちゃった。呼吸に合わせて、規則正しくレインの頭を撫でることで、どうにかパニックを起こさずに済んだ。
 ちょっと前のRCだったら、こんなこと絶対無理だったなあ。自分にもこんな勇気があるんだって、そう教えてくれたMさんに感謝です。それから、RCの一番の理解者、PCさん。そして、RCの守り神、レインにももちろん感謝ですよ。
 夕食のフライドチキン。あれがRCからの感謝の印だってこと、レイン気づいてくれたかな? 今は、骨を掴んだままぐっすり寝てます。すごく満足そうな顔してる。
 RCも、本当はのんびりしたいところなんだけど、なかなかそうもいかない。次なる敵が、すぐ目の前まで迫ってきてますからね。もちろんそれはBCのこと。彼女は強敵です。もしかしたら伯父さん以上かも。
 BC姫には、たくさんの兵隊がついてますからね。ちょっと前までは、RCもその兵隊の一人だった。いや、家来って言った方がいいのかな。とにかく、BCには逆らえなかった。
 だけど、これからはそうはいかない。もうBCの思い通りなんかにはさせない。今までと違って、RCには、頼りになる強い見方がついてるんだもん。
 たった今、レインが目を覚ましたみたいです。大きなあくびしてる。それから、また骨をペロペロしてる。食いしん坊さん、これからも頼りにしてるからね。RCのこと、しっかりと守ってね。
 皆さんの明日に、どうか虹色の橋がかかりますように!

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12 宝石が嫌い
雨と虹の日々 目次

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

初めまして~ッ♪
limeさんのとこからビュンっと飛んでまいりまして
一昨日から「雨と虹の日々」を
最初から読ませていただいておりました。

レインと虹子の微妙なずれ感がとっても楽しくて^^
「虹色日記」でのレインとのニアミスも
「虹子、あの時レインはねぇぇぇ」なんて、話しかけたくなっちゃう。(笑)

続き楽しみにしてます♪
虹子、頑張れーーッッ!!

Re: No title

akoさん、コメントありがとうございました。

> limeさんのとこからビュンっと飛んでまいりまして
> 一昨日から「雨と虹の日々」を
> 最初から読ませていただいておりました。

ああ、そういえば、limeさんのところで、何度か名前をお見かけしたことがありました。
無事に着陸していただき何よりです。limeさんにも感謝ですね。

> レインと虹子の微妙なずれ感がとっても楽しくて^^
> 「虹色日記」でのレインとのニアミスも
> 「虹子、あの時レインはねぇぇぇ」なんて、話しかけたくなっちゃう。(笑)

AはBの考えを知らない。
BはAの考えを知らない。
そして読者は、その両方を知っている。
今回の作品は、この多視点(複数視点)でのメリット、ということをかなり意識して書いているので、こういった感想はすごくうれしいです。

> 続き楽しみにしてます♪

ありがとうございます。
週に一度のゆっくりペースですが、これからもよろしくお願いします。

戦うRC

今日は頑張りましたね、虹子。ああ、でも、200万がもったいない。(と、そんなことばかりが気になる)
虹子の両親のことも、少しずつ見えてきたような、まだなような。
このあと、大きなポイントになって行く予感がしますね。
一番大人な感じのレインの独白が今日も冴えています。
でも植木鉢におしっこは、もうしないほうがいいね(笑)

あ、akoさんだ~^^

Re: 戦うRC

limeさん、コメントありがとうございます。そして、連載終了お疲れ様でした。

> 今日は頑張りましたね、虹子。ああ、でも、200万がもったいない。(と、そんなことばかりが気になる)

これって、明らかに、駄目な人間を、さらに駄目にしてしまうパターンですよね。

> 虹子の両親のことも、少しずつ見えてきたような、まだなような。
> このあと、大きなポイントになって行く予感がしますね。

そうですね。虹子は確実に変わってきてます。その変化が、いい方向へ向かうのか。それとも、悪い方向へ向かうのか、といったところでしょうか。

> 一番大人な感じのレインの独白が今日も冴えています。
> でも植木鉢におしっこは、もうしないほうがいいね(笑)

昔飼っていた猫は、なぜか、ガステーブルの上でおしっこするのが好きでした。
猫には猫なりに、人間には理解できないこだわりっていうものがあるんでしょうね(苦笑)

> あ、akoさんだ~^^

はい。飛んできてくれたみたいです。
いつか、カラスのポーも来てくれるかも。

No title

やった。虹子さん。頑張った。
ノー、がなかなか言えないときってあるんですよね。
でも、やるときはやらねば。
我慢はいけないですよ。

レイン、カリカリ・プラス・フライドチキンなんて、うますぎて満足して寝ちゃいますよね。
これからも頼りにしてるからね。
虹子さんのこと、しっかりと守ってね。

私、仕事、好きなんですよねぇ。
物書きも好きで・・・(^^;)

Re: No title

けいさん、いつも素直な感想ありがとうございます。

> やった。虹子さん。頑張った。

解決方法がいいかどうかは別として、今、虹子は必死に自分を変えようと戦ってるところです。

> ノー、がなかなか言えないときってあるんですよね。

私の場合、試食した食品を勧められると、絶対ノーとは言えません(苦笑)

> レイン、カリカリ・プラス・フライドチキンなんて、うますぎて満足して寝ちゃいますよね。

ジューシーなチキンが食べたい、というレインの気持ちが、微妙に虹子へ伝わっていることに気づいてもらえたでしょうか。

> 私、仕事、好きなんですよねぇ。
> 物書きも好きで・・・(^^;)

その二つのバランスを、けいさんはうまく取れているんですね。うらやましいです。
物書きは、意欲さえあれば、一生続けられるというのがいいですよね。あまりお金がかからないというのが、さらにいいところです。

プロフィール

片瀬みこと

Author:片瀬みこと
札幌在住のアマチュア作家

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