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雨と虹の日々 6 政治家が嫌い

6 政治家が嫌い

 俺は政治家が嫌いだ。
 正直、詳しい仕事の内容まではわからないが、どうやらあの連中が、社会のルールを作っているらしいのだ。嫌いになる条件としては、その程度の認識で十分である。
 今のこの社会環境、はたして猫にとって快適なものと言えるだろうか。答えは考えるまでもない。首を縦に振る猫など、ごくごく一部に限られるだろう。一部とは、おのれの肉球を、泥で汚した経験すらないような、平和ボケした家猫連中だ。だがそいつは、単なる思いすごしでしかない。やつらはまだ気づいていないだけなんだ。いつ人間に裏切られても不思議ではないということに。
 部屋のテレビでは、先ほどから、大勢の政治家らしき連中が映し出されていた。どいつもこいつもインチキくさい顔ばかりである。おそらくこれは、国会中継と呼ばれるものに違いない。人間にとってのみ都合のいいルール。それを作るのが目的の会議だ。
 虹子以外にもう一人、テレビ画面を見つめる者がいた。初めて見る中年男だったが、虹子が「伯父さん」と呼ぶのを聞いて、俺はすぐにピンときた。数日前にかかってきた電話。虹子の、あの不安げな表情が思い出される。受話器の向こう側にいた男が、今こうしてソファーでくつろいでいるのだった。
 すでに三、四時間ぐらいは経つだろうか。いまだに伯父さんの帰る気配はない。出前の寿司をつまみながら、日本酒をチビリチビリとやっている。幸い、猫には興味がないらしく、サイドボードの上にいる俺を一瞥し、「いい身分だな」と一言つぶやくだけで終わりだった。
 虹子と伯父さんの会話から、いくつかの事実が新たにわかった。俺以外に対しては、相変わらず口の重い虹子。その代わり、伯父さんの方は饒舌だった。
 二人には血のつながりがある。虹子の母の兄。それが伯父さんだという。昔は近くに暮らしていたものの、どういう理由からか、突然虹子の方から姿を消した。伯父さんは、ようやく最近になって、この場所を突き止めたのだという。うれしそうに話す伯父さんに対し、虹子の表情は暗く沈んで見える。
「虹ちゃんの気持ち、わからないでもないんだ」
 伯父さんは、アルコールでやや赤らんだ顔を、距離を置いて座る虹子の方へと向けた。穏やかな口調で話す伯父さんなのだが、虹子の顔に笑みが浮かぶことはなかった。それどころか、視線すら合わせようとしない。
「あそこは、お母さんと暮らした思い出の場所だもんなあ」
 昔を懐かしむかのように、伯父さんは続ける。
「しばらく見ない間に、虹ちゃんも、ずいぶん大人になったもんだ。伯父さん驚いたよ。しかも、お母さんに似てきた」
 虹子の視線は、テレビ画面に向けられたままである。国会中継に興味があるとは思えない。伯父さんと向かい合うよりは、政治家連中を見ている方が、まだましということだろうか。
「それにしても、伯父さんに一言ぐらいあってもよかったんじゃないか? 突然いなくなるなんて……。まるで、逃げ出すみたいに……。ずいぶん心配したんだよ。虹ちゃんが、どこかで事件に巻きこまれてるんじゃないかってね」
 伯父さんが、空になったコップをテーブルへ置いた。その音に、虹子の身体が一瞬ビクンッとする。
「ご、ごめんなさい……。伯父さんに、迷惑かけたくなくって……」
 ようやくそれだけを言うと、虹子はソファーから立ち上がった。素早くサイドボードへと駆け寄る。
「そろそろ、ごはんの時間だから……」
 俺を抱き上げる虹子の手が、なぜか少しだけ震えていた。
 俺専用の器が窓際に用意される。伯父さんに背を向けるような角度で、虹子もその場にしゃがみこむ。
「この猫、ごはん食べる時は、いつもこの場所じゃないと駄目なんですよ」
 伯父さんに向かって言っているのだろう。だが、決して虹子は後ろを振り返ろうとはしない。しかも嘘をついている。俺がいつも食事する場所といえば、テーブルのすぐ横と決まっているではないか。
「私がそばについてないと、ちゃんと食べてくれないんです」
 俺の頭を撫でながら、虹子はなおも嘘の説明を続ける。子供扱いもいい加減にしてほしい。そばに誰もいなくたって、むしろ、誰もいない方が食が進むってもんだぜ。
「この、ろくでなしめ!」
 突然の怒声だった。
 急いで振り返るものの、虹子の影になって、声の主を確認することができない。もちろん、伯父さんの怒鳴り声であることは間違いない。気になるのは、誰に対しての怒りか、ということである。
「俺はだまされねえからな」
 かなり酔いも回ってきているのだろう。伯父さんの口調が、ますます荒っぽくなっていく。
「たいした役にも立たないくせによお」
 俺のことだろうか。
「どうせ、毎日うまいもんばかり食ってるんだろうが」
 俺のことかもしれない。
「他人のことなんか、これっぽっちも考えてないくせによお」
 ほぼ俺のことだ。
「腹ん中は、真っ黒なくせしやがって」
 やっぱり俺のことだった。
 いや、違う。俺の場合は毛が黒いだけだ。腹の中まで黒いわけじゃない。たぶん。
「えらそうな態度取ってんじゃねえよ」
 それも誤解だ。多少えらそうに見える時もあるかもしれないが、俺は俺なりに、結構気を使うこともあるのだ。
「人を舐めるのもいい加減にしろってんだ」
 確かに舐めることもある。だがそれは、人が望んでいるからではないか。しかも犬みたいに、唾液をまき散らすような下品な舐め方はしていない。非難するなら、まずは犬が先だろう。
「お前らが、社会を駄目にしてるんだ」
 そこで、ようやく得心がいった。伯父さんの怒りの矛先は、きっとテレビ画面の中に向けられているに違いない。政治家を嫌っているのは、どうやら俺ばかりではなさそうだ。
「お、伯父さん。少し、飲みすぎなんじゃない?」
 慌てたように、虹子がソファーへと駆け寄る。俺もすぐに状況を理解した。テーブルの上の、食べ散らかされた枝豆。倒れた酒瓶。そして、ソファーから半分ずりおちた伯父さん。
「お医者さんから、注意されてるんでしょ? ……ちょ、ちょっと待ってて、今お水持ってくるね」
 虹子は、ソファーの上にいったん伯父さんを座り直させると、今度はすぐにキッチンの方へ向かって歩き出した。
「虹。お前は許せるのか?」
 虹子が足を止める。
「お母さんを殺したやつのこと、虹ちゃんは許すつもりなのか?」
 しかし、伯父さんを振り返ることはなかった。再び歩き出す虹子。ただし、行き先はキッチンではない。
 しばらくして、虹子は寝室から戻ってきた。手に持った封筒を伯父さんへ差し出す。
「伯父さん。今日のところは、これでホテルにでも泊まって」
 この二人の一連のやり取りが、俺にはよくわからなかった。あれだけ不機嫌だった伯父さんも、結局はおとなしく出て行った。どうやら封筒の中身が気に入ったらしいのである。「そんなつもりじゃあ」とか、「すまんなあ」などと言いつつ、最後には「助かるよ」とホクホク顔になっていた。封筒の中身はわからない。おそらく、猫にとってのかつお節的なものだったのだろう。
 虹子は、ソファーに座りこんだままじっとしている。何かを思案していることだけは間違いない。きっと、先ほどまでいた伯父さんのことなのだろう。虹子は明らかに迷惑がっていた。何かを恐れているようにさえ見えた。
 お母さんを殺したやつのこと。伯父さんが口にしたその言葉が気になる。“やつ”とは、政治家のことだろうか。いくらあの連中でも、人殺しまではするまい、とは思う。しかし、虹子は否定しなかった。その点が実に気になる。
 もう一つだけ、俺にはどうしても気になることがあった。テーブルの上に、まだいくつかの寿司が残っている。今の虹子に、それを食べる気配はない。このまま腐らせるつもりだろうか。実に気になる。だいいちもったいないではないか。寿司ネタになるために、大切な命を犠牲にした魚の立場はどうなる? 苦労して握った寿司職人の立場は?
 虹子が大きくため息をついた。どういうわけか、瞳が濡れているように見える。
 こんな時に、寿司をねだるなどというような、そんなデリカシーのないことをできるわけがない。多少えらそうに見える時もあるかもしれないが、俺は俺なりに、結構気を使うこともあるのだ。

虹色日記

 今日、伯父さんが来ました。招かれざる客です。いかにも、RCのことを心配してるって感じでしたけど、それはただの演技。わかるんです、RCには。
 伯父さんの目的はお金。そのためにはどうしてもRCが必要というだけのことなんです。正確に言うと、RCと、RCのママ、二人を利用して目的を果たそうとしてる。
 ホテル代を渡して、ようやく帰ってもらえたけれど、これはおそらく一時的なことでしかない。必ず、伯父さんはまたやって来る。RCには、そのことがはっきりとわかるんです。
 仕事もうまくいってないみたい。だけど伯父さんの場合は、自業自得なんですよ。酒癖が思いっきり悪くて、取引先の人とも、ずいぶんもめてばかりいましたからね。伯父さんに言わせると、すべて政治家がいけないんだそうです。
 皆さんは、苦手な親戚っていませんか? どう対処すればいいのか、ぜひRCにアドバイスください。
 伯父さんに限らず、RCの場合は、他人と話すのがすごく苦手。本音で話せる相手なんて、HAぐらいだったなあ。もちろん今は、レイン相手にいろいろしゃべることはありますよ。だけど、それは一方通行でしかない。当たり前ですけどね。その当たり前が、なんだかすごく悲しい。
 どんなことでもいいから、レイン、何かしゃべってくれないかなあ。「残ったお寿司ちょうだい」とかね。もしそんなことになったら、明日から毎日お寿司にしてあげるのに。
 そういえば、ネットで、面白いもの見つけました。何ていう人たちか忘れちゃいましたけど、霊と会話ができるって人たち、たまにテレビでやってることあるじゃないですか。その人の口を使って、死んだ有名人の霊にしゃべらせるっていうやつです。金額がよくわからないんですけど、頼めばやってくれるみたいなんですよ。今度、メールで相談してみようかと思ってるところです。
 RCが知りたいのは、もちろんHAのこと。彼の考え。彼の気持ち。もし、レインに乗り移っているなら、そのこともはっきりさせたい。これから先どうしたいのか。RCにどうしてほしいのか。RCは何でもするつもり。HAが望むこと、すべてかなえてあげたい。
 皆さんの中に、霊と話した経験がある方いませんか? 死んだおじいちゃんと話したとか、歴史上の人物と話したとか、そういうのです。RCに情報ください。
 HAの魂は、今でもレインの中で生き続けている。そのことがはっきりとわかったら、RC自身も、きっと今より強くなれるような気がする。
 ああ。何だかちょっとだけ元気出てきました。元気が出てくるとお腹空きますね。出前で取ったお寿司が、少し残ってるんですよ。あれ食べちゃおうかなあ。たまにはいいですよね。ダイエットばかりじゃ、ストレスでどうにかなっちゃう。しかも、レインはいらないみたいだし。本当ですよ。お寿司は嫌いなのかなあ。目の前に置いても、ただじっと見つめるだけで、ぜんぜん食べようとしないんです。
 レインが食べないなら、後はRCしかいないじゃないですか。そのまま腐らせてしまうなんてことできません。もったいなすぎます。だいたい、苦労して握った寿司職人に申しわけないじゃないですか。せっかく寿司ネタになってくれたお魚にも悪い。これだけ正当な理由が揃ってるんです。ダイエットの神様、RCにお許しを。
 皆さんの明日に、どうか虹色の橋がかかりますように!

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7 香水が嫌い
雨と虹の日々 目次

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

こんにちは~。

内容に関しての感想では有りませんが、
いいですね~。
本文と日記という形。
良く思いつかれましたね。

本文で、疑問を持ったことに日記で答えが出ていたり、
虹子さんとレインの気持ちがクロスしていたり、
面白いです。

それにしても、また、厄介な人が現れちゃいましたね。
伯父さん。
これから、どんどん、叔父さんに振り回されるのかと思うと、うんざりします。
うんざりさせる為に登場した伯父さんですけどね。

作戦成功です!

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Re: No title

ごんにゃんさん、コメントいつも感謝です。

> 本文で、疑問を持ったことに日記で答えが出ていたり、
> 虹子さんとレインの気持ちがクロスしていたり、
> 面白いです。

ありがとうございます。
レインと虹子の、考えや感情のすれ違いを、楽しんでもらえればと思っています。
人間嫌いのレインも、虹子に対してだけは、ちょっとずつ心を許していっているあたりも、注目しておいてください。
レインはレインなりに、気を使うこともあるんです。

> それにしても、また、厄介な人が現れちゃいましたね。

この物語、ほとんど虹子の味方になってくれそうな人が出てこないんですよ。
重要な登場人物が、まだすべて揃ったわけではないんですけどね。

> これから、どんどん、叔父さんに振り回されるのかと思うと、うんざりします。
> うんざりさせる為に登場した伯父さんですけどね。
> 作戦成功です!

そうですね。
この伯父さんみたいな人が、理想の男性です。という読者がいたらちょっと困ってしまいます。

Re: No title

重箱レディ(仮名)さん、誤字の指摘、ありがとうございます。

こういうの、ほんと助かります。
かなり注意してるつもりなんですが、やはりあるんですよね。

これからも、何か発見したら、よろしくお願いします。

No title

端役でもいい。
犬の糞でもいい。
出演させてください。
JR、重箱レディ。

はっはっは~~~走り抜けますよ~!

私はおじさんが理想ですよ~。
毎日、朝から、たんまり吞ませてころりと …
遺産相続する人も無いでしょうからね。
ほっほっほ~!

Re: No title

> JR、重箱レディ。

JR……?
虹子的には、名前を英語に置き換えて表現するので、
重箱は、どうなるんでしょうかねえ。うん、これは難しい。
そして、レディは、Rじゃなくて、Lですね。
重箱の隅をほじくってみました。

> 私はおじさんが理想ですよ~。
> 毎日、朝から、たんまり?ませてころりと …
> 遺産相続する人も無いでしょうからね。
> ほっほっほ~!

魔性の女、いや、重箱レディさん、
正しい伯父さんの利用法、ありがとうございました。

No title

嘘をついて演技をする虹子さんに、気を使って合わせるレイン。
いい奴じゃないですか。

お母さんについてのキーワードが?
虹子さん、わけありですねぇ。
若いのに・・・(←ここ、うらやましいとこ -_-;)

HA : ハッピー・アシスタント ?

Re: No title

> 嘘をついて演技をする虹子さんに、気を使って合わせるレイン。
> いい奴じゃないですか。

ちょっとした猫の恩返しです。
だけど、お寿司を我慢するのは、かなりの精神力が必要だったはず。

> HA : ハッピー・アシスタント ?

おお! さすがです。
“助け”を、ヘルプではなく、アシスタントとしたのは、ちょっと強引かな、とも思ったんですが、まあ、ここは虹子の遊び心ということで。
幸助は、内気な虹子にとって、幸福をアシストする存在でもありましたから。そういう意味合いも含めてみました。

この表記については、本文中で明らかにするつもりだったんですが、けいさんに先を越されちゃいましたね(笑)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

No title

おじさんの怒号に対するレインの反応が、面白いです。
でも、なにやら雲行きの怪しい展開になってきましたね。
おじさんも、ちょっと厄介な存在みたいですし。
レインには、なんともできないのでしょうかね・・・。
虹子ちゃん、今時の軽い子かと思ったけど、かなりいい子ですね。
残り物は、食べてあげたいよね^^

Re: No title

> おじさんの怒号に対するレインの反応が、面白いです。

ありがとうございます。
実際の声と、心の中の声とのやり取り。こういった表現は、一人称のメリットかもしれませんね。

> おじさんも、ちょっと厄介な存在みたいですし。
> レインには、なんともできないのでしょうかね・・・。

レインにできることは、今のところ、お寿司を我慢することぐらいでしょうか。

> 残り物は、食べてあげたいよね^^

残り物には福もあれば、カロリーもある。
ううん。できることなら福だけを吸収したい!

プロフィール

片瀬みこと

Author:片瀬みこと
札幌在住のアマチュア作家

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