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ホームチーム 14 答えたくないこと

14 答えたくないこと

 昨夜は本当に驚いた。木原守の両親に、まさかああいった形で出会うことになるとは。
 とはいえ、そのことに気づいたのは大也だけだ。守の両親は、自分たちの息子の友達が、客の中に混ざっていたことなど知るはずもない。第一、どちらもちっとも理解していない風だった。まるで無関心。子供の気持ちなど考えようともしていないのだ。子供なんて邪魔なだけ。そんな声さえ聞こえてきそうだった。
 自分の親はどうだろうか。
 大也は、卓真と理津子の顔を思い浮かべてみた。答えはすぐに出た。自分のことを理解してくれているなどとは、とても思えない。理解できているのであれば、そもそも離婚なんてするわけがないのだから。
 大也は足を止めた。視界の先には、バットを振る友人の姿。下校中いつも通りかかる公園の中である。
「よお」
 守の方から声をかけてきた。
「うん。なにやってんの、こんなところで」
「これが、新体操やってるように見えるかよ」
 素振りを続けながら、守は「お前のこと待ってたんだよ」とぶっきらぼうに付け加えた。
「何さ。それ使って、殴りかかろうとしてるわけじゃないよね」
「場合による」
 冗談にしては、あまりにも真剣な口調に聞こえる。
「またあ」と半笑いになりつつ、大也は二、三歩その場から後退した。「またまた」と声を裏返しつつ、そばのベンチに腰を下ろす。
「昨日の試合見た? ハル・オースティンすごかったよね」
 なるべく明るい話題を振ってみた。
 返答はない。ビュンッ! という鋭いバットスイングの音が返ってくるだけだった。
「実は俺、あの試合、球場で見てたんだよ」
 ビュンッ!
「あ、別に自慢しようとしてるわけじゃなくて。ホントたまたまチケットが手に入ってさあ」
 ビュンッ!
「父さんの会社、スポンサーだってこともあって、時々こういうラッキーなこともあるんだ」
 ビュンッ!
「そういえば、今度、春野菜のレトルトカレーが出るらしいよ。これ極秘情報」
 ビュンッ!
 守にとっては、まったく価値のない極秘情報だったらしい。その後、「セキセイインコが、ハコベ食べるって知ってた?」や、「この前、女子高生に喫茶店に誘われたんだ」などの話をしてみたが、やはり反応はなかった。
 大也はいったん口を閉じた。バットスイングをBGMに、大急ぎで思考を巡らせる。
 たぶんあのことだろう、と何となく見当はついていた。それは、守が大也に聞きたいこと。そして、大也が守に答えたくないこと。そうに決まってる。
「守の、停学って……」
 バットがピタリと止まる。大也は、「いつまでなんだろうね」と何気ない口調で続けた。
 守の視線が、こちらに向けられる。
「学校、来週から戻れることになった」
「え・ そ、そうなの?」
「ああ。野球部にもな」
「へえ、よかったじゃん。軽い処分で済んで」
「その代り、先輩の何人かが、退部させられるらしい」
 うれしそうな言い方ではなかった。それどころか、こちらを見やる目つきは、明らかに先ほどよりも鋭い。まるで、裏切り者に対する時のそれに似ている。
「どうしてそうなったか、お前わかるか?」
 大也は答えなかった。答えられなかった。その代り、落ちていた空き缶を、カランッと足の下で転がした。
「内部調査だかなんだかわからないけど、あることがきっかけで、野球部員全員が調べられたらしいんだ」
 カランッ。
「どこかの正義感ぶった馬鹿が、何か余計なことを学校側に言ったんだとさ」
 カランッ。
「俺が万引きしたのは、先輩たちから命令されたからじゃないのか、だってよ」
 カランッ。
「そして俺は、約束されてたレギュラーメンバーから外されることになった」
 カランッ。
 グシャッ。
 そして空き缶は、守に踏み潰されることになった。もちろん、大也の足とともに。

 昨夜は本当に驚いた。詩織にいったい何が起こったのか、それがいまだにピンとこない。
 卓真は、会社帰りに詩織のマンションへと急いだ。彼女のことが気になり、今日は一日落ち着かない気分のままだった。
「明日は、ちゃんと会社に行かせますから」
 孝子は言った。その口ぶりは、まるで学校をずる休みした子供の保護者といった風だ。
「どうぞ。このレモンティー、おいしいんですよ」
「ああ、それじゃ遠慮なく」
 よく冷えていて、確かに味も良かった。どこのメーカーだろう。うちの商品じゃないことだけははっきりしている。香りは弱いが、特にインスタントくさいという風でもない。
 いや。今はそんなことどうでもいいのだ。
「お母さんのことなんだけど……」
 テーブルの上にコップを置くと、卓真は姿勢を正した。
「前にも、ああいったことがあったの?」
 それが今、真っ先に確認しなければいけない質問だったのだ。
「ああいったこと?」
 聞き返す孝子だったが、質問の意味するところはわかっているようだ。「うーん」と唸りながら、チラリと横を向く。詩織が今寝ているという部屋の方向だ。
「お母さんに、直接尋ねてみた方がいいかな」
 孝子の様子をうかがいながら、卓真は、「もちろん、今はそっとしておいてあげなきゃね」と付け加えた。
 相変わらず孝子の口は重い。今までの彼女にしては珍しい反応だった。いったん口を開きかけたかと思っても、そこからなかなか言葉は出てこない。
 少し休んだら、母はすぐに回復した。病院にはまだ行っていない。今はぐっすりと眠っている。薬を飲んでいるので起こすわけにはいかない。
 それだけのことを聞き出すのにも、卓真としてはかなりの忍耐力を必要とした。
 知りたいことはいろいろとあった。卓真ははっきりと聞いていたのだ。あの時の詩織の言葉を。
 “許してください”そして、“誰か助けて”
 苦しげに喘ぎながら、詩織は確かにそう口にしていた。
「今日は、わざわざすみませんでした」
 孝子がペコリと頭を下げる。頼むからもう帰ってくれ、とその瞳は訴えていた。
「レモンティーごちそうさま。お母さんには、無理しないようにって言っておいてくれるかな」
 詩織の寝室を一瞥してから、卓真は追い出されるような気分で玄関へと向かった。
 明日になれば、少しは何かわかるはずだ。そう。明日になりさえすれば、再び詩織のあの笑顔を目にすることができるだろう。
 今の卓真には、ただただそう願うことしかできなかった。

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15 事情説明
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No title

あの大喧嘩をしたのは守くんの両親だったのですか。
あれは酷かった。客商売失格です。
犬も食わない……レベルであったら、まだいいんですが。(いや、よくないか)

詩織さん、あの喧嘩の最中に倒れたんですよね。
やっぱりなにかトラウマがあったのかな。
だとしたら重症です。鈍感な卓真に、守れるのか・・・とか。

Re: No title

limeさん、コメントありがとうございます。

> 詩織さん、あの喧嘩の最中に倒れたんですよね。
> やっぱりなにかトラウマがあったのかな。

そうなんですよ。
この辺りから、ちょっとシリアスな要素もからんできます。
ずっとほのぼのした雰囲気で行きたかったんですけどね。
この先どうなるか、いまだに自分でも見えてきません。
プロットなしで、本当によかったのかなあ。
大丈夫か、火野親子。大丈夫か、作者。

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Re: No title

鍵コメGさん、コメントありがとうございます。

> そろそろ、シリアス路線ですか?
> ジョーク抜きになりますか?
> 心して読まねば。

あ、でも、誰かが死んでしまうとか、そんな深刻な展開にはなりませんよ。たぶんね。
そもそも、この「ホームチーム」というタイトル、ホームドラマ風の、という意味合いも含めていましたから。

> 毎回、食べ物とかのキーワードが気になっています。

私の作品、食事シーンが多いんですよね。
今回は特にそう。主人公の設定が、食品会社社員ですから。
何か新しいメニューはないか、私も、卓真同様いつも頭を悩ませています。

> あと、失礼になるかもですが、以前から思っていたのですが、
> 難しい言葉を漢字に変換されてるのに、
> 嬉しいとか美味しいは変換されていない。
> 意図的な物ですか?

意図的、というほどでもないんですが。
どう表記するかは、プロ作家の小説を参考にしています。
「美味しい」よりも、「おいしい」を使っている作家の方が、なぜか圧倒的に多いようです。
「うれしい」か、「嬉しい」かは、半分半分といったところでしょうかね。
きっと作家それぞれのこだわりがあるんだと思います。
私の場合は、今のところただプロに倣っているだけです。

> と、重箱を突っつくような読者からでしたー。

これからも、どんどん突っついてください。

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片瀬みこと

Author:片瀬みこと
札幌在住のアマチュア作家

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